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Speech-to-Text

「えー」も「あの」も、
もう書き起こされない

議事録の自動文字起こしは、これまで「あとで人間が整形する」前提の下書きでしかありませんでした。Google DeepMindが発表した新音声モデル「Gemini 3.5 Transcribe」は、85言語対応でフィラー語をリアルタイムに自動除去しながら文字起こしする——その仕組みと、逐語記録が必要な現場に残る注意点を整理します。

AI Navigate 編集部2026.08.28読了 6分

生の音声 えー、今日の、あの、議題は…… 自動除去 今日の議題は…… 整形済みテキスト(リアルタイム)
FIG. 発話と同時に「えー」「あの」を検出し、確定前に取り除く
01
Why Now

「議事録の下書き」戦争に
Googleが新カードを出した

会議の自動文字起こしはすでに競争の激しい領域だ。Otter.aiやFireflies.aiのような専業スタートアップに加え、Zoom AI CompanionやMicrosoft TeamsのCopilotも標準機能として組み込み済みで、Google自身もGoogle Meetの字幕・要約機能を強化し続けてきた。だがこれらの多くは「とりあえず全部書き起こして、あとで人間かAIが要約する」という二段構えで、フィラー語(「えー」「あの」「um」「uh」)混じりの生の書き起こしを土台にしてきた。

Google DeepMindが公開したGemini 3.5 Transcribeは、この前提を変える。85言語に対応し、発話と同時にフィラー語を検出して除去しながら、整形済みのテキストをリアルタイムで生成する。「あとで直す」のではなく「最初からきれいな状態で出す」方向に踏み込んだ点が、既存の文字起こしツールとの違いだ。Google公式ブログの技術解説によれば、フィラー検出には発話のタイミングと音響特徴を組み合わせた独自の分類モデルを使っているという。


02
How It Works

言語カバレッジより、
「その場で消す」ことに賭けた

音声認識の対応言語数だけで見れば、Gemini 3.5 Transcribeが世界最多というわけではない。勝負どころは別にある。

85
対応言語数
リアルタイム
発話と同時にフィラー除去
~99
参考: OpenAI Whisper large-v3の対応言語数

実は音声認識の対応言語数そのものでは、OpenAIが公開しているWhisper large-v3が約99言語をカバーしており、単純な言語カバレッジでGemini 3.5 Transcribeが上回っているわけではない。差別化点は「消す」タイミングにある。従来の要約AIは、書き起こし全文が確定してから後処理でフィラー語を取り除く方式が主流だった。Gemini 3.5 Transcribeは、この除去処理をストリーミングの最中に完結させ、画面に表示される文字列自体が最初からフィラー抜きになっている

この違いは地味に見えて実務上は大きい。従来方式では「フィラーごと書き起こし→要約AIに渡す→要約結果を確認する」という工程を踏む必要があったが、Gemini 3.5 Transcribeなら文字起こしの出力そのものがほぼ議事録の下書きとして使える。要約AIを挟む前段の手直し工程が、まるごと一段減る計算になる。

03
Who It Helps

誰に、どう効くか

立場によって恩恵の大きさはかなり違う。三つの視点で見ておきたい。

01

会議の主催者・PM

議事録作成の「読みやすく整える」工程がほぼ不要になる。特に社内会議の頻度が高いチームほど、月あたりの手直し時間の削減幅は大きい。

02

非母語話者が多いチーム

85言語対応かつフィラー自動除去なので、英語や日本語が母語でない参加者が多い国際チームほど恩恵が大きい。言い淀みが多くなりがちな非母語話者の発言ほど、整形の効果を体感しやすい。

03

法務・医療など逐語記録が必要な現場

ここはむしろ注意が必要。契約交渉やカウンセリングの記録では「言い淀み」自体が証拠や所見の一部になりうるため、フィラー自動除去は逐語性の要件と衝突する可能性がある。


直すのではなく、
最初からきれいに出す


04
What's Next

次に何が起きるか

注目すべきは、この文字起こしエンジンがGoogle Meetの字幕・議事録機能やGoogle Workspaceの要約機能にいつ統合されるかだ。単体のAPIとして使えるうちは開発者やアーリーアダプターの検証にとどまるが、Meetの標準機能に組み込まれた瞬間に利用者数は一気に跳ねる。Google Workspace Updatesのブログで今後の統合スケジュールが明かされるかを注視したい。

実務での推奨アクションは三つ。①社内会議で試験導入し、既存の要約AIとの相性を確認する、②法務・医療など逐語性が必要な部門では自動除去のオン/オフ切り替えが可能かをベンダーに確認する、③非母語話者を含む国際会議で先行検証し、手直し時間の削減効果を数値で測る。

05
Counter View

「消えた言い淀み」は
本当に不要な情報か

フィラー語の除去は読みやすさを上げる一方で、失われる情報もある。言い淀みや間(ま)は、話者の躊躇・強調・不確実性を示す非言語的なシグナルであることが多く、交渉記録や医療面談の記録ではこの「間」自体が重要な文脈になり得る。自動除去がデフォルトで有効になっている場合、利用者が気づかないまま重要なニュアンスを失うリスクがある。

もう一つの論点は、フィラー検出モデルの精度そのものだ。方言や話し方の癖によっては、本来の単語をフィラーと誤認識して削ってしまう可能性も否定できない。Google側から誤検出率についての具体的な数値はまだ公開されておらず、現時点では「実運用でどこまで安定して精度が出るか」は未検証と見るのが妥当だ。逐語性が求められる用途では、当面は自動除去をオフにし、生の書き起こしと併用する運用が現実的だろう。