動画生成に、「演出」という語彙が加わった。
これまでのAI動画生成は「始点」と「終点」を指定するのが精一杯で、途中のカット割りは結局、人間が編集ソフトで手直しするしかありませんでした。Luma AI が公開した新モデル Ray3.2 は、1クリップに最大16点のキーフレームを置けるようにし、この前提を崩します。
「なんとなく撮れる」から
抜け出せなかった
ここ数年のAI動画生成は、テキストプロンプトか、せいぜい始点・終点の2枚の画像を渡すところまでしか進化していませんでした。Runwayは長らくネイティブの終点フレーム指定を持たず、Kling 3.0でようやく始点・終点の2点指定に対応した段階です。狙ったカット割りを作るには、生成した素材を編集ソフトに持ち込んで手作業でつなぎ直す前提が続いていました。
Luma AIが2026年6月9日に公開した Ray3.2は、この前提を変えます。1クリップの中に最大16点のキーフレームを配置でき、各点でカメラの向きや構図を直接指定、その間の動きはモデルが補間します。「なんとなく撮れる」ツールから「狙って撮れる」ツールへの切り替えです。
| 従来の主要ツール | Ray3.2 |
|---|---|
| Runwayはネイティブの終点指定を持たない | 1クリップに最大16点のキーフレームを配置 |
| Kling 3.0は始点・終点の2点指定まで | 各点でカメラパス・構図を個別に指定 |
| 中間のカット割りは編集ソフトで手直し | 点と点の間の動きはモデルが自動補間 |
| アプリ内生成のみで外部統合しにくい | Ray3.2は初めてAPIとして提供 |
数字で見る Ray3.2
出典: Luma API公式ページ「Build with Luma APIs」および Luma公式発表(2026年6月9日)。
点を置き、モデルが
間を埋める
仕組みは単純です。タイムライン上に「この瞬間はこう見えていてほしい」というアンカーを最大16個置くと、Ray3.2がその間の動きを補間して1本の映像に仕上げます。
アンカーを置く
タイムライン上の任意のタイミングに、構図・カメラ位置・被写体のポーズなどを指定したキーフレームを最大16個まで配置します。
モデルが間を補間
隣り合うキーフレームの間の動きは、Ray3.2が滑らかに生成します。点の密度を上げるほど、狙った通りのカメラワークに近づきます。
HDR/EXRで書き出す
出力はネイティブHDR生成に対応し、16bit EXR形式でも書き出せます。DaVinci ResolveなどのプロカラーグレーディングツールにそのままAI生成素材を渡せます。
プロンプトを書く仕事から、
タイムラインを演出する仕事へ。
誰に、どう効くか
映像制作者・デザイナー
絵コンテ通りのカット割りを、生成後の手直しなしで作れるようになります。ただしキーフレーム数が多いほど狙いは通りやすくなる一方、点を置く設計そのものに習熟が要ります。
マーケター
広告やSNS向けの短尺動画で、狙った瞬間の構図を外さず作れます。とはいえ数秒の縦型ショート動画1本のためだけに16点を設計する必要はなく、恩恵は尺の長い企画ほど大きくなります。
エンジニア
Ray3.2は初めてAPIとして公開され、自社プロダクトへの組み込みが可能になりました。動画生成をSaaSの一機能として直接統合したいチームには、これまでアプリ経由でしかできなかった作業が自動化できます。
楽観できない点も残る
Ray3.2の登場で、動画生成の「制御可能な精度」が始点・終点の2点から最大16点へと一気に広がったのは事実です。しかしこれは、Sora・Kling・Veoなど各社が同じ方向(プロンプトからの脱却、フレーム単位の制御)を競っている最中の一手にすぎません。16点という数字だけが独り歩きしないよう注意が必要です。
実務上の限界も残ります。キーフレームを16個設計する作業自体、従来のプロンプト1行に比べて明らかに手間が増えます。また生成コストはクレジット制で解像度や尺によって変動するため、長尺・高解像度案件では想定より高くつく可能性があります。「編集ソフトが不要になる」という話ではなく、「編集の一部がタイムライン設計に前倒しされる」と捉えるのが実態に近いでしょう。