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Case Study / Manufacturing AI

工場のシミュレーション作りが、
8.5人日から1.8人日になった日。

自律型コーディングAI「Devin」に、工場設備のシミュレーションモデルを書かせる——キユーピーが実際にやってみた結果、小規模モデルの開発工数は78.8%減。Uber や Salesforce に続く事例の中でも、国内企業が具体的な人日ベースの数字を公開したのは珍しい。何が効いたのかを図解する。

AI Navigate 編集部2026.08.09読了 7分

BEFORE AFTER (Devin) 8.5人日 1.8人日 -78.8%
01

The Bottleneck

工場シミュレーションは、
職人技のコードだった

キユーピーが工場設備の検証に使っているのは、独 Siemens 製「Tecnomatix Plant Simulation」。設備の搬送速度や稼働率を仮想空間で試算できる産業向けシミュレーションソフトで、その挙動は専用スクリプト言語「SimTalk」で書く。ロ゜ットアーム1台、コンベア1本の動きも、すべてコードとして定義しなければならない。

これまでは、社内のソフトウェアエンジニアが SimTalk を手で書き、動かし、ズレを直す——という反復作業に多くの時間を費やしていた。小規模なモデル1本でも設計・実装・検証を合わせて平均8.5人日。決して特殊な事情ではなく、専用言語を扱えるエンジニアの手が足りないという、製造業のDX現場でありがちなボトルネックだった。

厄介なのは、SimTalk のような産業ソフト専用言語が汎用プログラミング言語ほど資料や事例が豊富ではない点だ。書ける人材の異動や退職がそのままノウハウの喪失に直結しやすく、「その人にしか作れないシミュレーションモデル」が現場に何本も溜まっていく、という属人化のリスクを常に抱えていた。


02

How It Works

クラウドとローカル、
2つのDevinを使い分ける

キユーピーの体制は、Cognition社の自律コーディングAI「Devin」を役割分担で使う二段構え。

STEP 1 · クラウド版 Devin 用語・手順の整理 SimTalkの設計方針を土台化 STEP 2 · Devin CLI(ローカル) コード実行・修正 SimTalkを書いて動かし直す RESULT 検証済み モデル完成
FIG. クラウド版Devinで土台を固め、Devin CLIが手元でコードの実行と修正を担う
8.5→1.8
人日(小規模モデル1本あたり)
78.8%
工数削減率
8/4
DeNA AI Linjが支援実績を公開
03

Why It Matters

「実測の人日」が、
国内でようやく出てきた

Devin はこれまでも Uber や Salesforce といった海外企業での導入事例が語られてきたが、日本企業が工数を人日単位で開示したのは大きい。Innovatopia の報道によれば、今回の取り組みを支援したのは DeNA AI Link。単発のデモではなく、実際の生産設備検証フローに組み込んだ結果としての数字であることが、他の製造業にとっての参考値になる。

誰に効くか。生産技術部門でシミュレーション要員が不足しているエンジニアリング企業には、即戦力になり得る事例だ。一方、PoC 予算を握る立場の人には「小規模モデルで78.8%減」という前提——大規模・複雑なモデルでは削減率が同じとは限らない——を割り引いて読む必要がある。ソフトウェア開発を外部委託していない現場ほど、社内エンジニアの育成コストと比較する材料になる。食品・化学・自動車部品など、独自の生産設備を持つ製造業全般に応用が利く汎用性の高さも見逃せない点だ。

次に何をすべきか。①自社の SimTalk・PLC・ラダー図など専用言語資産の棚卺しをする、②まずは小規模モデル1本を Devin CLI で試作し人日を実測する、③削減できた時間を「検証本数を増やす」方向に再投資するか判断する——の3手が現実的な着手順になる。

反対視点・リスク。ZDNET Japan の報道でも触れらている通り、AIが生成した SimTalk コードの妥当性を最終的に確認するのは人間のエンジニアであり、検証責任がゼロになるわけではない。また78.8%という数字は今回開示された小規模モデルの実績であり、大規模モデルや異なる設備種別への一般化は未検証。生成コードの品質バラつきや、Plant Simulation側のバージョン依存も本番導入前に確認すべき点として残る。

属人化リスクの裏返しとして、AIエージェントに書かせたコードのレビュー体制自体も新たに設計し直す必要がある。従来は「書ける人が少ないから、書ける人がレビューもする」という体制だったが、生成量が増えれば、レビュー側の人員配置がボトルネックとして再浮上する可能性もある。今回の数字はあくまで1社1事例であり、業界横断の平均値ではない点も割り引いて読む必要がある。同業他社が同じ体制を組んでも、既存のシミュレーション資産の量や社内エンジニアのスキル差によって、削減率は上下しうる。


専用言語の壁は、
もうエンジニアの人数で測る時代ではない。