AI Music Litigation
Udioに、Sony Musicが再提訴。
AI音楽生成サービス「Udio」に対し、Sony Musicが2026年7月20日、ニューヨーク州南部地区連邦地裁へ新たな訴訟を提起した。対象は30,117件の楽曲——2024年の当初提訴とは別枠の、新たな法廷闘争の始まりだ。
Second Complaint
「追加」ではなく
「別訴」を選んだ理由
裁判所が併合を認めなかったため、Sonyは新たな訴状を立てた。
Sony Music Entertainmentは2026年7月20日(月)、米ニューヨーク州南部地区連邦地裁(SDNY)にUdio Inc.を相手取る新たな著作権侵害訴訟を提起した。訴状は、Udioが無許諾で学習に用いたとされる楽曲を30,117件と具体的に列挙している。対象アーティストにはBeyoncé、Harry Styles、Elvis Presleyらの名が含まれると報じられている(Innovatopia)。
この訴訟は、2024年6月にUniversal Music Group(UMG)・Sony Music・Warner Music Group(WMG)がRIAA(全米レコード協会)主導でUdioとSunoを相手に起こした一連の訴訟の延長線上にある。当初の訴状が名指ししていた楽曲はわずか333曲だった。その後の証拠開示(ディスカバリー)手続きで、Sonyは音源の指紋照合(sound-signature matching)によりUdioの学習データセット内に自社カタログの楽曲を多数発見したとして、既存訴訟への追加を申し立てた。しかし2026年6月29日、Alvin K. Hellerstein判事はこの追加申立てを却下し、新たな訴訟として別途提起するよう事実上求めた。今回の新訴状は、その判断を受けての一手にほかならない(Music Business Worldwide)。
数字で見る、訴訟の拡大幅
2024年6月
UMG・Sony Music・WMGがRIAA主導でUdioとSunoを提訴。当初の対象曲は333曲、請求額はおよそ5,000万ドル規模とされた。
2025年10月29日
UMGがUdioと和解を発表。ライセンス契約を結び、許諾済み音源のみで動く新しいAI音楽プラットフォームを2026年中に共同で立ち上げる計画も示した。Warner Music Groupも同様に和解している。
2026年6月29日
Hellerstein判事が、開示手続きで見つかった3万曲超を既存訴訟に追加するSonyの申立てを却下。
2026年7月20日
Sonyが単独で新たな訴状をSDNYに提出。対象は30,117曲、請求額は最大45億ドルに拡大した。
Why It Matters
なぜ今、この提訴が重要なのか
レーベル側の足並みが崩れた後に残った、最後の法廷闘争という位置づけ。
2024年の提訴時点では、UMG・Sony Music・WMGの主要3レーベルが足並みを揃えてUdioとSunoを追及していた。しかし2025年10月、UMGが先陣を切って和解し、許諾済みカタログを使う新プラットフォームの共同開発という「対立から提携へ」の転換を選んだ。WMGも追随し、AI音楽生成企業との係争を続けているのは主要レーベルの中でSonyだけという構図になった。
この文脈で見ると、今回の再提訴は単なる訴額の拡大ではない。「学習データの無断使用は侵害か、それとも新しい創作物を生む技術的プロセスの一部として許容されるか」という、生成AIと著作権法の中心的な論点が、和解ではなく判決によって決着する可能性を残した唯一のケースになったことを意味する。UMG・WMGの和解が「ライセンス市場の形成」という業界の落としどころを示した一方で、Sonyの訴訟はその落としどころを法的に検証する場として機能する。
和解でカタログをライセンス化する道と、
提訴で無断学習を争う道——
Sonyは、後者に残った最後の大手レーベルになった。
Who It Affects
誰に、どう効くか
商用でAI音楽生成ツールを使う事業者ほど、注視すべき局面。
Udioを業務利用する企業
制作物にUdio生成音源を組み込む場合、権利侵害訴訟の当事者になるリスクは今回の提訴でむしろ高まった。契約上の補償(インデムニティ)条項の有無を確認し、商用配信前のライセンス状況チェックを実務フローに組み込む段階に来ている。
レーベル・パブリッシャー関係者
Sonyが用いた音源の指紋照合(sound-signature matching)や、YouTube音源取得ツール「yt-dlp」使用疑惑といった立証手法は、他社が自社カタログの無断学習を調査する際の参照事例になり得る。
個人・趣味利用のユーザー
個人が非商用でUdioを楽しむ分には、今回の訴訟の直接的な影響は小さい。ただしサービスの存続や機能制限に発展する可能性はゼロではなく、長期的な動向は追う価値がある。
| 2024年の当初提訴 | 2026年の新訴状 |
|---|---|
| 対象曲: 333曲 | 対象曲: 30,117曲 |
| 原告: UMG・Sony Music・WMG連名 | 原告: Sony Musicのみ |
| 請求額: 約5,000万ドル規模 | 請求額: 最大45億ドル |
| 位置づけ: 既存の統一訴訟の一部 | 位置づけ: 独立した新規訴状 |
What's Next
次に何が起きるか
短期的にはUdio側の応答(答弁書)の内容が焦点になる。Udioは2026年4月、当初訴訟への回答で、YouTubeに投稿された著作権保護楽曲を学習に用いたこと自体は認めつつ、それは「公には見えないバックエンドの技術的処理であり、最終的に侵害とならない新しい製品を生み出すためのもの」だとしてフェアユース(公正利用)を主張していた。新訴状でも同様の防御が展開される可能性が高い。
業務でAI音楽生成を利用する側への推奨アクションは3つ。1.契約中のUdio利用範囲と補償条項を再確認する、2.訴訟の帰趨(和解かフェアユース判決か)を四半期単位でウォッチする、3.Sonyも将来的にUMG・WMGと同様にライセンス契約へ転じる可能性を織り込み、代替の許諾済みAI音楽サービスも並行して検討する。
Caveats
反対視点・リスク・限界
楽観一辺倒で読むべき話ではない。第一に、Udioのフェアユース主張には一定の法的な理論的支えがあり、米国では生成AIの学習データ利用を巡る判例が完全に固まっていない。Sonyの主張が認められる保証はない。第二に、Sonyが根拠とする「音源の指紋照合」による楽曲同定の精度や、yt-dlp使用の立証については、今後の証拠開示・反論を経て争われる余地が残る。第三に、UMG・WMGが和解済みである以上、業界全体としては「訴訟よりライセンス」が既に主流になりつつあり、Sony対Udioの結果が他のAI音楽生成企業(Sunoなど)との係争や業界慣行に一律に波及するとは限らない。判決が出るまでには相応の時間がかかる見込みで、当面は不確実性を前提に動く必要がある。