生成 AI と訴訟動向 2026:NYT / Getty / RIAA

AI Navigate Original / 2026/4/27

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要点

  • 学習データ訴訟が急増、フェアユース対侵害が地域で分かれる
  • NYT/Getty/RIAA が主要、RIAA はライセンス契約で和解
  • 日本は声/絵の係争・文化庁指針・ライセンス事業
  • 新類型:AI 幻覚の弁護士責任、提出前に検証必須

生成 AI が学習に使ったデータを巡って、世界中で訴訟が起きています。論点は大きく言えば一つ ——「他人の作品を許可なく学習データに使うのは合法か」。ただし答えは、テキスト・画像・音楽・コードという素材ごとに、また米国・英国・日本という地域ごとに、少しずつ違う方向へ進んでいます。本稿は 2024〜2026 年の主要な裁判を素材別に整理し、企業が今とるべき備えまでをまとめます。

著作物(記事・画像・曲・コード) 無断で学習? AIモデル 生成物 裁判所 フェアユース? 侵害?

FIG.1 争点は「学習段階」「生成物の段階」の二つに分かれる

争点を分けて見ると理解しやすくなります。ひとつは 学習段階(作品を取り込んでモデルを訓練する行為そのもの)、もうひとつは 生成段階(出力が元の作品とそっくりになってしまう問題)。多くの裁判はこの二つのどちらか、あるいは両方を争っています。

01テキスト:報道・出版社 vs OpenAI / Anthropic

もっとも注目度が高いのがテキスト系です。新聞社・出版社・作家が、自分たちの記事や書籍を無断で学習に使われたとして提訴しています。

ニューヨーク・タイムズ v. OpenAI / Microsoft

2023 年 12 月に提訴。NYT は「ChatGPT が NYT 記事をほぼそのまま出力できる」例を多数示し、無断学習とブランドへの被害を主張しました。2025 年 3 月、担当のスタイン判事は OpenAI の却下申立てを退け、中心的な著作権侵害の主張を審理に進めることを認めています。さらに 2026 年初頭には、OpenAI に対し 2,000 万件規模の ChatGPT 会話ログの提出を命じる判断が確定しました。本稿の時点(2026 年)でまだ和解にも最終判決にも至っておらず、サマリージャッジメント(略式判決)の審理が 2026 年 4 月に予定されています。NYT 単独の訴訟ではなく、複数の OpenAI 関連訴訟が「In re OpenAI(MDL 第 3143 号)」として集約されている点も押さえておきましょう。

作家・出版社の集団訴訟

  • 米国作家協会(Authors Guild)v. OpenAI — 書籍の無断学習を争う集団訴訟。2025 年 10 月に却下申立てが退けられ、上記 MDL に統合されました。2026 年に入り、裁判所は当事者に正式な調停(メディエーション)入りを命じています。
  • Wall Street Journal、CNN、Daily Mail などの報道機関も相次いで提訴。
  • 一方で OpenAI は、AP 通信や Axel Springer など一部の報道社とはライセンス契約を結ぶ動きも並行して進めています(訴訟と契約が同時に走る状態)。

作家 vs Anthropic — 史上最大級の和解

テキスト系で大きな節目になったのが Bartz v. Anthropic です。Anthropic が「シャドウライブラリ」と呼ばれる海賊版サイトから 700 万冊規模の書籍をダウンロードして学習に使ったことが争点になりました。2025 年 9 月、Anthropic は約 50 万作品について 総額 15 億ドル以上(1 作品あたり約 3,000 ドル)を支払う和解に合意し、裁判所の予備的承認を得ています。これは米国の著作権訴訟として史上最大級の支払額です。ただしこれはあくまで「海賊版の入手・複製」という入口の問題が中心で、学習行為そのものがフェアユースかという根本論点に最終決着をつけたわけではありません。最終承認の審理は 2026 年に予定されています。

注意すべきは、和解が成立しても 「学習は合法/違法」の決着とは限らないこと。多くは入手経路や生成物の再現性を巡る個別の解決です。

02画像:英国判決が示した「ねじれ」

画像系では、ストックフォト大手・アーティスト・ハリウッドの大手スタジオがそれぞれ別の角度から争っています。

Getty Images v. Stability AI(英国判決:2025 年 11 月)

Getty は「Stable Diffusion が Getty の透かし入り画像を学習した」と米英で提訴しました。注目された英国の判決は 2025 年 11 月 4 日に出ましたが、結論は世間のイメージと逆で、Getty 側がほぼ敗訴しています。裁判の過程で Getty は「学習が英国内で行われた証拠がない」ことを認め、主要な著作権侵害の主張を取り下げました。残った商標権の主張についても、ごく初期版の Stable Diffusion に関する「極めて限定的」な認定にとどまっています。さらに裁判所は 「学習済みモデルの重み(パラメータ)は、画像のコピーそのものではない」という技術的な判断も示しました。「AI 学習に画像を使うのは合法か」という核心には踏み込まなかったため、決着というより「次の論争への入口」と受け止められています。

元の画像 統計的なパラメータ(重み) 「コピーではない」 =英国高等法院

FIG.2 英国裁判所は「モデルの重みは画像の複製ではない」と判断した

アーティストの集団訴訟(米国・カリフォルニア)

漫画家 Sarah Andersen らが、Stability AI・Midjourney・DeviantArt・Runway を相手取った集団訴訟(Andersen v. Stability AI)。2024 年に著作権侵害の主要な主張が「却下せず審理に進める」と判断され、現在はディスカバリ(証拠開示)段階。陪審審理は 2026 年 9 月に予定されています。論点は「作風(スタイル)の模倣がどこまで著作権で守られるか」です。

ハリウッド大手 vs Midjourney

2025 年 6 月、ディズニーと NBCユニバーサルが Midjourney を共同提訴しました(大手映画スタジオによる初の本格訴訟)。スター・ウォーズやザ・シンプソンズなどのキャラクターを Midjourney が生成・配布できる点を問題視しています。学習段階だけでなく 「生成物の配布・収益化」に焦点を当てているのが特徴で、裁判所が判断しやすい構図とされています。

2026年6月、Getty Images が OpenAI と提携し、ChatGPT の回答内にライセンス済みの Getty 画像を表示する仕組みを導入することが報じられました(Innovatopia)。Getty は Stability AI を相手取った著作権訴訟を抱えていた一方で、OpenAI とは「訴訟ではなくライセンス契約」を選んだ形になり、画像系の論点が「学習合法かを裁判で問う」フェーズから、「正規ライセンスを商用契約で取り込む」フェーズへ移りつつあることを示す節目です。これにより ChatGPT 側は出力に使う画像素材の権利関係を整理しやすくなり、Getty 側は AI 経由でのライセンス収入という新しい収益チャネルを得ることになります。

03音楽:レーベルごとに分かれる対応

音楽系は「全員一致で和解」したわけではなく、レーベルごとに対応が分かれている点が重要です。「2025 年に一括和解」とまとめるのは不正確です。

RIAA(Universal / Sony / Warner)v. Suno / Udio

2024 年 6 月、米国レコード協会(RIAA)が大手 3 レーベルを代表して Suno と Udio を提訴。「既存楽曲に酷似した音源を生成できる」と主張しました。その後の展開は次の通りで、状況はばらけています。

和解・提携に動いた側徹底抗戦・係争中の側
Universal × Udio:2025 年 10 月に和解。生成 1 回あたりの課金(パージェネレーション)型ライセンスを設計し、共同で新サービスを計画。Sony Music:いずれとも未和解。Suno(マサチューセッツ)・Udio(NY 南部)に対するフェアユース裁判は 2026 年夏に重要判断が見込まれる。
Warner × Suno:2025 年 11 月に和解(ライセンス提携を含むと報道)。Suno:和解を拒み、フェアユースを根拠に係争継続。後述の Bartz 判断を引き合いに出している。

つまり音楽業界では「データ提供+収益分配(ライセンス)モデル」へ向かう流れと、「あくまで裁判で白黒つける」流れが併存しているのが 2026 年の実態です。和解条件の詳細は非公開のものが多く、報道ベースで把握するしかない点にも注意してください。

04コード:GitHub Copilot 訴訟は上訴中

コード生成では Doe v. GitHub(GitHub Copilot 訴訟、2022 年 11 月提訴)が代表例です。当初 22 件あった請求の大半は棄却され、DMCA(著作権管理情報)に関する中心的主張も「生成コードが原告のコードと十分に類似しているとは言えない」として退けられました。ただしこれで終わったわけではありません。原告は DMCA 1202 条の解釈について上訴し、第 9 巡回区控訴裁判所が 2024 年末に上訴を受理。地裁の審理は上訴の結論待ちで停止しています。オープンソースライセンス違反と契約違反の 2 件の主張も残っています。「学習行為そのものの違法性」を立証するハードルが高いという傾向は示されましたが、最終的な決着はこれからです。

05日本の状況

日本では、生成 AI の著作権侵害について確定した司法判断はまだ出ていません(2026 年時点)。実務の拠り所になっているのは、文化庁が 2024 年 3 月にとりまとめた 「AI と著作権に関する考え方について」と、同年 7 月の「チェックリスト&ガイダンス」です(素案へのパブリックコメントには約 2.5 万件の意見が集まりました)。現場で起きている動きは次の通りです。

  • 声優・俳優の声を無断学習した AI 音声サービスへの抗議や、業界団体による申し入れ。
  • イラストレーター側の学習除外の取り組み(学習を拒否する意思表示の整備)。
  • 出版社(講談社・小学館など)が、自社コンテンツを AI 学習用にライセンス提供する事業を始める動き。

海外では、2024 年に中国の裁判所が「ウルトラマンによく似た画像を生成させた」サービスに著作権侵害を認めるなど、地域ごとに判断が出始めています。EU では AI 規則(AI Act)の生成 AI 関連規定が 2025 年から段階的に施行されています。日本でも今後、個別事案の判断が積み上がっていくと見られます。

A New Front

もう一つのリスク:AI の「もっともらしい嘘」を法廷に出す

著作権とは別軸で浮上しているのが、AI が生成した誤情報(ハルシネーション)を専門家がそのまま使ってしまうリスクです。2025 年 5 月、大手法律事務所 Latham & Watkins が Concord Music Group v. Anthropic の法廷提出書面で、Claude に作らせた引用をそのまま使い、著者名と論文タイトルが事実と異なる(捏造された)ことが発覚しました。リンク・巻号・ページ・発行年は正しかったぶん、人間が見落としやすかったのです。

担当判事はこれを「極めて重大な問題」とし、該当部分を書面から削除しました。ただし制裁(サンクション)までは科されていません。著作権の争いとは別に、「AI 出力を検証せず提出した専門職の責任」という新しい論点が立ち上がっていることを示す事例です。

巻号・ページ・発行年 著者名・論文タイトル = 一見すると正しい引用 判事:該当部分を削除 (制裁は科さず)

FIG.3 体裁は正しいのに中身が捏造 ── だから人間が見落とす

06論点の整理

素材を横断して、争われている論点を整理すると次のようになります。

論点2026 年時点の状況
学習行為の著作権侵害性米国はフェアユースを巡り係争中で確定せず。英国は Getty 事案で核心に踏み込まず、論争は継続。
生成物の逐語的・酷似的な再現NYT v. OpenAI など直接証拠のある事案で侵害が認められやすい方向。出力の配布・収益化(Midjourney 事案)も新たな焦点。
作風(スタイル)の保護多くの法域で著作権の保護対象外。日本では不正競争防止法などで限定的に争える可能性。Andersen 事案で 2026 年に陪審判断の見込み。
データの入手経路海賊版からの入手は不利(Anthropic は 15 億ドル超の和解)。正規ライセンス取引が拡大。
AI 誤情報の専門職責任著作権とは別軸。検証なしの提出に倫理・信用上のリスク(Latham & Watkins 事案)。

07企業がいまやるべきこと

判例が固まりきっていない過渡期だからこそ、「裁判の結論を待つ」のではなく、自衛策を先に整えておくのが現実的です。

01

学習データの来歴を確認する

使っている AI モデルが、どんなデータで学習されたのかをベンダーに照会する。海賊版由来かどうかは特に確認したいポイント。

02

正規ライセンス素材の比率を上げる

商用利用ライセンスや、権利者が学習を許諾した素材(オプトイン)を中心に使う。生成物の権利関係がクリアな選択肢を優先する。

03

生成物の類似チェックを入れる

出力が既存の著作物に酷似していないかを社内で確認する工程を設ける。特に対外公開・商用配布の前は必須。

04

契約・ポリシーに AI 利用を明記

クリエイターとの契約や社内規程に、AI 利用の範囲・責任分担を書き込む。誰が最終確認するかも決めておく。

05

専門領域では人間が必ず検証

法務・医療・財務など重大な領域では、AI 出力の引用や事実をそのまま使わない。出典を一次資料で必ず裏取りする。

08まとめ

生成 AI と著作権の関係は、裁判と契約の両輪でルールが形作られている過渡期にあります。テキストでは Anthropic の巨額和解と OpenAI 関連訴訟の集約、画像では英国 Getty 判決の「ねじれ」とハリウッドの参戦、音楽ではレーベルごとに分かれる対応、コードでは Copilot 訴訟の上訴 ── どれも「最終決着」ではなく、まだ動いています。確定判決を待つより、ライセンス取引と社内ガイドラインで足元を固めるのが賢明です。そして著作権とは別に、AI の誤情報をそのまま使わない検証フローも、いまや組織の必須装備になりつつあります。