画像 AI は「ゼロから作る」だけの道具ではありません。実務でよく使うのは、すでにある写真・イラストの一部だけを直す(Inpainting=インペインティング)と、画面の外側を描き足して構図を広げる(Outpainting=アウトペインティング)という2つの編集です。撮り直しや描き直しをせずに、欲しい絵に近づけられるのが強みです。
たとえば「商品写真に映り込んだ電源コードを消したい」「縦長の写真を SNS バナー用に横長へ広げたい」。前者が Inpainting、後者が Outpainting です。どちらも 2026 年現在は主要ツールに標準搭載されていて、ブラウザやアプリだけで完結します。
FIG.1 Inpainting=内側の修正、Outpainting=外側への拡張。「直す」か「広げる」かで使い分ける
012つの編集は「どこを AI に任せるか」で分かれる
仕組みはどちらも同じで、AI に描かせたい範囲(マスク)を指定し、その部分だけを生成し直すという発想です。違いは「描かせる範囲が画像の内側か、外側か」だけ。用途で整理すると次のようになります。
| Inpainting(部分修正) | Outpainting(領域拡張) |
|---|---|
| 不要物の除去(通行人・電線・ロゴ) | 構図を広げる(被写体の周囲を追加) |
| 部分の差し替え(服の色、空の雲) | 縦横比の変更(縦写真→横バナー) |
| 欠損・キズの補完(古写真の修復) | 背景の延長(見切れた床や壁を継ぎ足す) |
| マスク=消したい・変えたい場所 | マスク=新しく描き足したい余白 |
どちらも、AI は周囲のピクセル(色・明るさ・質感・遠近感)を手がかりに「ここには何があるべきか」を推測して描きます。だから周囲に手がかりが多いほど自然に、少ないほど破綻しやすいという共通の性質があります。
02主要ツールでは、こう呼ばれている(2026年)
機能名はツールごとに違うので、「Inpainting」「Outpainting」という用語だけ知っていても操作画面で迷います。2026 年時点の代表的なツールでの呼び名と入口を押さえておくと、どのアプリでもすぐ見つけられます。
Adobe Photoshop / Firefly
部分修正は生成塗りつぶし(Generative Fill)と削除ツール(Remove Tool)。拡張はトリミングを画像の外へ広げる生成拡張(Generative Expand)。専用の Firefly「Fill & Expand」モデルで処理されます。
Google Gemini(Nano Banana)
Gemini の画像モデル(通称 Nano Banana、2026 年は Nano Banana 2 / Pro)。チャットで「この部分を消して」と指示する自然言語編集。連続編集でも顔や服の一貫性を保ちやすいのが特徴。
Midjourney
Web の Editor / Canvas で、部分修正はVary Region(範囲指定の塗り直し)とErase、拡張はZoom Out(四辺に追加)とPan(一方向へ拡張)。
OpenAI の ChatGPT でも、生成した画像をタップしてブラシ/選択ツールで直したい範囲をなぞり、自然文で指示するインペインティング的な編集ができます(2026 年は GPT Image 系モデル)。呼び名は違っても、操作の本質は「範囲を選ぶ → 言葉で指示する」で共通です。
用語ではなく操作の型を覚える。どのツールも「範囲を選んで、言葉で指示する」。
03実務フロー:マスク → 指示 → 選別 → なじませ
ツールが違っても、うまくいく手順はほぼ同じです。次の4ステップを基本形にすると、初めてのツールでも迷いません。
範囲を指定する(マスク)
直したい・広げたい場所をブラシや枠で囲む。Inpainting は対象に少し余白を含めて囲むとつなぎ目が自然に。Outpainting は広げたい方向の余白を作る。
言葉で指示する(プロンプト)
「その範囲をどうしたいか」を具体的に。除去なら「背景に合わせて自然に消す」、追加なら「同じ室内の床を続ける」など、周囲との連続性を言葉で補う。
複数生成して選ぶ
1回で決めない。たいてい複数の候補が出るので、境界が自然で破綻のないものを選ぶ。気に入らなければ範囲や指示を変えて再生成。
仕上げでなじませる
境界が浮くときは、画像編集ソフトで明るさ・色・粒状感を周囲に合わせる。等倍(100%)で確認すると、縮小表示では見えない継ぎ目に気づける。
FIG.2 手順はツール共通。範囲を選び、言葉で指示し、候補から選び、最後に人の目で整える
04うまくいかない時の見方
AI 編集の失敗は、原因がだいたい決まっています。やみくもに再生成する前に、次のどれに当てはまるかを確認すると早く直せます。
- 境界が不自然・くっきり線が残る:マスクが対象ギリギリすぎる。少し広めに囲み、仕上げで色・明るさを周囲に合わせる。
- 消したものの「跡」が残る:背景の手がかりが少ない場所は AI が推測しづらい。範囲を分けて少しずつ消す、または別候補を選ぶ。
- 広げた部分だけ絵柄が浮く:Outpainting は遠くほど手がかりが減る。一気に広げず、少しずつ複数回に分けて拡張する。
- 顔・文字・手が崩れる:これらは AI が苦手な領域。崩れた部分だけ再度 Inpainting で描き直すか、人の手で補正する。
共通のコツは「一度に欲張らない」こと。広い範囲をまとめて直すより、小さく区切って積み上げるほうが破綻しにくく、やり直しも楽です。
Rights & Verification
「直せる」と「直してよい」は別の話
技術的に編集できても、権利や事実の面で問題になることがあります。他者の写真・著作物を改変するときは、著作権・肖像権・商標に配慮が必要です。人物の写り込みを消す、ブランドロゴを足すといった操作は、利用範囲によってトラブルになり得ます。
また、報道・証拠・記録など事実性が問われる用途では、AI による加筆・除去は原則避けるべきです。実在しない要素を描き足せてしまうのが Inpainting/Outpainting の本質なので、「あったことにする/なかったことにする」編集は誤解を生みます。商用利用の可否や学習データの扱いは各ツールの利用規約で変動するため、その都度公式を確認してください。
FIG.3 編集ボタンを押す前に「権利・事実性・利用規約」をひと呼吸で確認する
05本章のまとめ
画像 AI の通底原則は「生成は素材、選別・仕上げ・権利確認は人」です。Inpainting は内側を直し、Outpainting は外側を広げる——どちらも「範囲を選んで言葉で指示する」という同じ型で動きます。ツールごとの呼び名(生成塗りつぶし/生成拡張、Vary Region/Zoom Out、Nano Banana の自然言語編集など)は変わっても、操作の本質と注意点は共通です。手軽さ・品質・プライバシーで使い分け、最後は必ず人の目で確認しましょう。