ここまでは「人が AI に相談しながら自分で資料を作る」話でした。Agent(エージェント)は一歩進んで、調べる・構成する・スライドファイルを書き出す、までを自分で実行します。代表例が Anthropic の Claude Cowork。あなたの PC 上で、許可したフォルダの中だけを読み書きしながら、PowerPoint(.pptx)や Word・PDF を実ファイルとして作り上げる「デスクトップ型のエージェント」です。ここでは「何を任せられて」「どこは人がやるべきか」を、実機の挙動に沿って整理します。
What an agent actually does
01「相談」と「代行」はどう違うか
通常のチャットは、聞かれたことに文章で答える「相談相手」です。スライドの構成案や文面のアイデアはくれますが、ファイルそのものはあなたが手で作ります。一方 Agent は、あなたが許可したフォルダの中で実際にファイルを読み・書き・作成できます。「やり方を説明する」のではなく「やって、成果物を置いておく」のが違いです。
FIG.1 チャットは「助言」で止まり、Agent は「成果物の生成」まで実行する
Claude Cowork は 2026 年時点でリサーチプレビューとして提供されており、有料プラン(Pro / Max / Team / Enterprise)で使えます。macOS・Windows のデスクトップアプリ上で動き、あなたが指定したフォルダ内のファイルにアクセスして作業します。チャットでは Claude はあなたのファイルを直接触れませんが、Cowork では「読む・編集する・作る」権限を、あなたが選んだフォルダに限って渡せるのが要点です。
02任せられること
Cowork が得意なのは、「調べて → 構成して → 形にする」という一連の段取りを丸ごと引き受けることです。資料作成まわりでは次のような使い方ができます。
調査して初稿を作る
テーマを渡すと、Web も含めて情報を集め、構成を考え、スライドの第一稿(.pptx)を書き出す。「調べ物を含む叩き台づくり」に最も向く。
既存資料を作り替える
手元の Word・PDF・既存スライドを読み込み、別フォーマットや別の聞き手向けに再構成。docx→PDF などの変換もこなす。
データから資料化する
表計算ファイルなどを渡して集計させ、要点を図表とともにスライド・レポートにまとめる。
公開されている事例では、ある分野の最新動向というテーマだけを渡したところ、Cowork が関連する数値や実在企業の例を自分で調べ、図表を作り、10 枚程度の筋の通ったスライドを 1 つの指示から組み上げた、と紹介されています。「ゼロから・調査込みで・内容量の多い初稿」を作らせる用途が、現状もっとも効果を発揮するところです。
03頼み方の型
Agent は目的だけ伝えれば動きますが、最初の指示で聞き手・目的・分量・出典の扱いを決めておくほど、手戻りが減ります。次のような骨組みが使いやすいです。
この資料フォルダの内容と、次の要件で提案スライドのドラフトを作って。
― 聞き手:社外の役員クラス/目的:新サービスの導入提案/分量:10 枚程度。
出典は各スライドに明記。数字は渡した資料内のものだけを使い、足りない数字を創作しないこと。
調べ物が必要なら出典 URL を残して。完成後に、確証が持てない箇所を一覧で報告して。
ポイントは 2 つ。「創作しない」と明示すること(後述するハルシネーション対策)と、「不確実な箇所を最後に一覧で出させる」こと。これだけで、人が検証すべき場所が一目で分かります。
04仕上げは PowerPoint 側で
Cowork が作るのは「調査済みの第一稿」です。会社のテンプレート(スライドマスター)にきっちり合わせる仕上げは、別ツールの Claude for PowerPoint アドインが向いています。これは PowerPoint のリボンに Claude を組み込むもので、あなたの既存レイアウト・フォント・配色を尊重して編集・追加してくれます。実務では「Cowork で調査と初稿 → PowerPoint で自社テンプレに整える」という二段構えが扱いやすい流れです。
FIG.2 Cowork で「中身」、PowerPoint アドインで「体裁」。役割分担で速く整う
05必ず守る安全策
Agent は実際にファイルを触り、Web にもアクセスし得るぶん、チャットより気をつける点があります。Cowork は安全側の仕組みをいくつか備えていますが、運用ルールは人が決めます。
フォルダは絞って渡す
Cowork はあなたが接続したフォルダの中だけを読み書きできる設計です。よくある失敗は、Documents 全体やホームディレクトリごと渡してしまうこと。財務書類や個人情報まで見えてしまいます。専用の作業フォルダを作り、そこだけを共有しましょう。
機密データは投入可否を確認
顧客情報・契約・人事などを渡す前に、自社のポリシーや契約上の制約で投入してよいかを確認します。バックアップを取ってから作業させるのも安全です。
数字・主張は人が裏取り
Agent が生成した数値や断定は、もっともらしくても誤り(ハルシネーション)が混じり得ます。出典 URL や元資料に当てて、一次情報で必ず検証します。「確証のない箇所を一覧で出させる」指示が効きます。
最終承認は人
ドラフトをそのまま社外提出しない。事実・表現・体裁を人が確認して仕上げます。削除など取り返しのつかない操作には Cowork 側も都度確認を求めますが、最終判断は常に人が持ちます。
小さく試してから広げる
いきなり本番の重要資料を任せず、影響の小さいタスクで挙動を確かめてから範囲を広げます。
Agent に渡すのは段取りと初稿。事実と判断と仕上げは、人が握り続ける。
Why a human stays in the loop
速さは Agent、責任は人
Agent が一気に初稿を出すと、つい「できあがり」と錯覚します。けれど資料の価値は、数字が正しいか・聞き手に響くか・出してよい内容かで決まります。これらは Agent が判断しきれない領域です。下図のように、生成は委ね、検証と承認のゲートは人が握る——この分担がどのツールでも共通の原則です。
FIG.3 生成は委ね、検証・承認という「ゲート」は人が握る
06位置づけ:本章のまとめ
Agent は「資料作成の下働き」を丸ごと巻き取る存在です。段取りと初稿は Agent、判断・事実・仕上げは人——この分担は、Cowork に限らずどのツールでも共通します。まずは専用フォルダで小さなタスクから試し、出力を必ず人が検証する。そこを守れば、調べ物から初稿づくりまでの時間を大きく圧縮できます。
※本記事に挙げた製品名・提供形態・機能は 2026 年時点の公開情報に基づきます。リサーチプレビュー段階の機能は変わりやすいため、利用可否・対応プラン・料金・できることの範囲は公式情報で都度確認してください。