キャッチコピーや LP(ランディングページ)の言葉は、才能で一発当てるものではなく、たくさん作って・選んで・テストで確かめるもの。生成AIが得意なのは、まさにこの「数を出す」「角度を変える」「弱点を先回りで潰す」という部分です。本記事は、AI を相棒にして“売れる言葉”の素案を量産し、人の判断で磨き込むまでの流れを、具体例と図で順を追って解説します。
Why AI Fits Here
01コピーづくりは「数撃って選ぶ」仕事
プロのコピーライターでも、最初の1本がそのまま採用されることはまれです。実際には、20本・50本と書き出し、その中から「これは反応が取れそう」という方向を絞り込んでいきます。AI はこの初稿の量産と切り口の振り分けを数十秒でこなすため、人は「どれを残すか」「どう言い切るか」という判断に集中できます。
注意したいのは、AI が出すのは素材であって完成品ではないこと。言い回しの引き出しは AI、戦略(誰に・何を約束するか)は人、という分担を最初に決めておくと、後の工程が楽になります。
FIG.1 AI=生成役、人=選別と判断、テスト=最終ジャッジ。役割を分けると速い
02効くプロンプトの“型”
AI に「いいキャッチコピーを作って」とだけ頼むと、当たり障りのない一般論が返ってきます。今の生成AIは指示にとても素直なので、条件を具体的に・出力形式まで指定するほど質が上がります。最低限、次の4点は埋めましょう。
- 商品/サービス:何を売るのか(機能ではなく、提供する中身)
- ターゲット:誰に向けるのか(属性だけでなく、悩みや状況まで)
- 提供価値:使うと相手の何が変わるのか(得られる未来=ベネフィット)
- 避けたい印象:チープ・大げさ・煽りすぎ等、踏みたくない地雷
さらに「訴求軸ごとに各5本」「30文字以内」「常体(だ・である)で」のように本数・字数・トーン・出力形式を添えると、選びやすい形で返ってきます。
そのまま使えるプロンプト例
あなたは BtoB SaaS のコピーライターです。次の条件でキャッチコピーを作ってください。
商品:請求書発行を自動化する経理向けクラウド。ターゲット:月末に手作業の請求処理で残業している中小企業の経理担当。提供価値:請求書づくりの時間を月10時間減らせる。避けたい印象:大げさ・チープ・誇張。
出力:訴求軸別(①ベネフィット ②共感・あるある ③数字 ④逆張り)に各5本、各30文字以内、箇条書きで。各案に「狙い」を一言添えること。
「狙いを一言添えて」と頼むと、AI がその案を出した理由(=想定する刺さりどころ)も見えるので、選別の手がかりになります。
03訴求軸を変えて“角度”を増やす
同じ商品でも、どこを押すかで言葉はまったく変わります。AI に軸を指定して書き分けさせると、自分一人では出ない切り口が手に入ります。下の4軸は使い回しやすい出発点です。
ベネフィット軸
使うと何が良くなるかを直球で。「請求書づくり、月10時間ぶん早く帰れる。」
共感・あるある軸
相手の困りごとを言い当てる。「月末、また請求書で残業ですか。」
数字・実証軸
具体的な数で信頼を作る。「手作業の請求処理を、平均10時間カット。」
4つ目の逆張り軸(常識を裏返す/あえて売り込まない)は当たれば強いですが、外すと意味不明になりがち。AI に数を出させて、人が「これは挑戦できる」と思えた1本だけ残すのがコツです。
04LP の言葉は“1本の流れ”で設計する
LP は単発のコピーの寄せ集めではなく、上から下へ読み進むうちに納得が積み上がる一本道であるべきです。AI に LP を書かせるときも、バラバラに発注せず「流れ」ごと設計させると一貫性が出ます。
FIG.2 ヘッドライン→サブ→ベネフィット/根拠→CTA。約束を提示し、裏づけ、背中を押す
とくに大事なのが先頭のヘッドライン。読者が最初に(そして多くの場合ほぼそこだけ)読む場所なので、「相手の悩みを名指しする」か「得られる結果を言い切る」のどちらかに振るのが定石です。サブヘッドラインで具体を足し、本文で根拠(数字・事例・第三者の声)を示し、最後の CTA(行動喚起)で「次に何をすればいいか」を1つだけ明確にします。
05定番フレームに沿わせて書かせる
「どう構成すればいいか分からない」ときは、昔から使われているコピーライティングのフレームを AI に指定すると安定します。これらは流行ではなく人の意思決定の順番に沿った型なので、媒体が変わっても効きます。
| PAS(悩みが明確な相手向け) | AIDA(まず気づかせたい相手向け) |
|---|---|
| Problem:問題を名指す | Attention:注意を引く |
| Agitate:その痛みを具体化 | Interest:関心を深める |
| Solution:解決策として提示 | Desire/Action:欲しくさせ→行動へ |
たとえば「この LP を PAS の型で。Problem・Agitate・Solution の3ブロックに分け、各ブロックの見出しと本文(80字以内)を書いて」と頼めば、流れの通った素案が返ります。すでに悩みを自覚している相手(検索広告経由など)には PAS、まだ問題に気づいていない相手には AIDA、と相手の状態でフレームを選ぶと外しにくくなります。
06反論を先回りして潰す
買わない理由(高い・効果が不安・面倒そう・今じゃない)を放置すると、どんなにうまいコピーも素通りされます。AI は想定される反論の洗い出しが得意なので、これを材料に「先回りの一文」を作らせると LP が一段強くなります。
良いコピーは売り文句を並べるのではなく、読者の「でも…」を一つずつ消していく。
反論出し→打ち返しのプロンプト例
このサービスの LP に対して、見込み客が抱きそうな「買わない理由・不安・反論」を重要度順に10個挙げてください。次に、それぞれを LP のどのセクションで・どんな一文で打ち消せるか、案を添えてください。
出てきた反論のうち、本当に多いものは FAQ や保証(返金・無料トライアル)として明示すると効果的です。なお、不安解消のために事実でない実績や保証を書かせないこと。ここは次のセクションの法的リスクに直結します。
07選び方と検証:最後は人とデータ
AI が並べた案は、そのまま公開せず必ず人の目で絞り、可能なら実データで確かめます。AI が「良さそう」と判断した順位は、実際の反応とずれることが珍しくありません。
戦略に合うかで一次選別
「誰に・何を約束するか」から外れた案は、語感が良くても落とす。残すのは方向が正しいものだけ。
事実・表現をチェック
根拠のない断定・最上級・誇張がないか確認。数字は出典と一致しているか必ず突き合わせる。
A/B テストで実証
有力案を2〜3本に絞り、ヘッドラインや CTA を入れ替えてクリック率・申込率で比較。勝った要因を次に活かす。
ヘッドラインや CTA は LP の中でも反応への影響が大きい場所なので、まずここからテストすると学びが早いです。テストで分かった「効いた言い回し」を次のプロンプトに足していくと、AI の出力も自社向けに育っていきます。
Legal & Trust
誇張を AI 任せにしない
AI は頼めば威勢のいい言葉をいくらでも作ります。しかし「日本一」「絶対に痩せる」「効果保証」のような根拠のない断定・最上級は、日本では景品表示法(優良誤認・有利誤認)に触れるおそれがあります。違反が認定されると措置命令や課徴金の対象になり、信用も傷つきます。実際に健康食品・化粧品・通販の分野で命令が続いており、消費者庁の集計では直近1年(2024年8月〜2025年7月)の課徴金命令額は約3.3億円にのぼります。
注意は表現だけではありません。2023年10月からステルスマーケティング(広告であることを隠す宣伝)も景表法違反です。インフルエンサーへの依頼投稿や“お客様の声”を自社サイトに載せるときは、広告・PR である旨をきちんと表示する必要があります。2024年11月には、依頼して書いてもらった投稿を「PR」と明示せず自社サイトへ転載した事例で措置命令が出ています。
FIG.3 AIの案は「事実」と「法令」のフィルタを必ず通してから世に出す
運用ルールはシンプルです。数字や効果は裏づけのあるものだけ使う/最上級・断定は避ける/広告は広告と分かるように表示する/最終チェックは人が行う。心配な領域(医療・健康・金融など)は専門家や法務の確認を挟みましょう。AI は言葉の引き出しとしては頼れますが、事実と責任は人が持つのが大原則です。
08まとめ:AI は引き出し、戦略と事実は人
コピーづくりで AI が輝くのは、初稿の量産・切り口の振り分け・反論の洗い出しといった「数と角度」の工程です。一方で、「誰に何を約束するか」という戦略、根拠と表現の正しさ、そして最終判断は人が握り続けます。まずは商品・ターゲット・提供価値・避けたい印象の4点を埋めたプロンプトで案を量産し、戦略に合うものへ絞り、A/B テストで確かめる——この往復を回すほど、自社の“勝ちパターン”が言葉として蓄積されていきます。