Claude や Gemini、GPT は各社の API から直接呼べます。それなのに、わざわざ AWS Bedrock・Google Vertex AI(現 Gemini Enterprise Agent Platform)・Microsoft Foundry(旧 Azure AI Foundry)といったクラウドプラットフォーム経由で同じモデルを使う企業が多いのはなぜか。理由は単純で、会社がすでに使っているクラウドの中に AI を“同居”させられるからです。請求・権限・データの置き場所・監査ログ——これらを新しく作り直さずに済むのが最大の価値です。この記事は、その仕組みと選び方を初学者向けに、図とともに整理します。
FIG.1 同じモデルでも、クラウド経由なら認証・ネットワーク・請求・ログを“自社の枠”の中で完結できる
01クラウド経由を選ぶ5つの動機
機能や速度はほぼ同じです。違いが出るのは「組織として運用しやすいか」という一点に集約されます。代表的な動機は次の5つです。
- セキュリティとコンプライアンス:通信や認証を自社の IAM/VPC の枠内に収め、既存の社内ルール(誰がどのモデルを呼べるか)にそのまま乗せられます。データの取り扱い条件も、すでに締結済みのクラウド契約に従います。
- 請求の一本化:AI の利用料が既存の AWS/GCP/Azure 請求に合算され、経理・予算管理が増えません。部門別のコスト配賦も既存の仕組みで回せます。
- データの所在(リージョン)指定:処理を行う地域を選べます。「EU 内で処理」「国内リージョンのみ」といった要件があるときに効きます。ただしモデルごとに使えるリージョンは限られるため、要件のリージョンで目的のモデルが提供されているかは必ず事前確認します。
- SLA とサポート:エンタープライズ契約があれば、稼働保証や問い合わせ窓口も既存の契約・サポート体制の延長で扱えます。
- マルチモデルを1つの基盤で:同じプラットフォーム上で Claude・Gemini・GPT・Llama・Mistral などを横並びに試し、用途ごとに切り替えられます。比較検証や乗り換えのコストが下がります。
02主要3プラットフォームの全体像
2026 年時点で、企業向けにモデルを束ねる主力は次の3つです。名称が近年変わっているので、まずそこを押さえます。
- AWS Bedrock(Amazon):Claude を厚く揃え、Llama や Amazon 自社の Nova/Titan 系も扱う。
- Google Vertex AI:2026 年に Gemini Enterprise Agent Platform へ改称・拡張。Gemini を中心に、Claude や Llama も Model Garden から呼べる。
- Microsoft Foundry(旧 Azure AI Foundry):GPT 系(GPT-5.x)の本拠地。2026 年からは Claude も提供開始し、Gemini を除く主要モデルがほぼ揃う。
かつては「Claude は Bedrock/Vertex、GPT は Azure、両者に Claude/GPT は無い」という棲み分けでしたが、各社が相互にモデルを取り込んだ結果、境界はかなり曖昧になっています。下表は“どこで何が一級市民として使えるか”の現状の目安です(提供状況は頻繁に変わるため、最終判断は各公式カタログで確認してください)。
| プラットフォーム | 主に呼べるモデル(2026 時点) |
|---|---|
| AWS Bedrock | Claude(Opus 4.8 / Sonnet 4.6 / Haiku 4.5 など)、Llama、Amazon Nova、Mistral ほか |
| Vertex AI / Gemini Enterprise Agent Platform | Gemini(3.x 系)、Claude(Opus / Sonnet / Haiku)、Llama、Gemma ほか 200+ モデル |
| Microsoft Foundry(旧 Azure AI Foundry) | GPT(5.x 系)、Claude(Opus / Sonnet / Haiku)、Llama、Mistral ほか多数 |
料金体系はどこも基本「従量制(使ったトークン分)」で、加えてキャパシティ予約の固定料金プラン(Bedrock の Provisioned Throughput、Azure の PTU など)を選べる、という構造は共通です。
03クラウド経由の“通り道”はどれも同じ形
3社で API の細部は違いますが、流れは同じです。「権限を持つ→モデルを指定して呼ぶ→結果を受け取る」。直接 API との一番の違いは、最初の「権限」が API キー1本ではなく、クラウドの認証基盤(IAM など)に置き換わる点です。
FIG.2 API キーの代わりにクラウドの権限基盤で認可し、モデル ID とリージョンを指定して呼ぶ
04AWS Bedrock で Claude を呼ぶ
Bedrock では3ステップで動かせます。①使いたいモデルへのアクセスを申請し、②IAM で呼び出し権限を与え、③コードから呼ぶ、という流れです。
モデルアクセスを申請
AWS コンソール → Bedrock → Model access で、使いたい Claude モデルにチェックしてリクエスト。多くは短時間で承認されます(モデル・リージョンにより異なる)。
IAM 権限を付与
呼び出すユーザー/ロールに bedrock:InvokeModel 権限を与えます。最小権限が原則で、対象モデルやリージョンを絞ると安全です。
モデル ID を指定して呼ぶ
最新の Claude はクロスリージョン推論プロファイル IDでの指定が基本です。地域プレフィックス(米国なら us.)が付く形に注意します。
具体的なコード例(Node.js)です。最新世代の Claude は、単純な anthropic.claude-... ではなく us.anthropic.claude-... のような推論プロファイル ID を使う点が以前と変わったところです。これは複数リージョンへ自動で負荷分散するための仕組みで、安定運用に役立ちます。
import { BedrockRuntimeClient, InvokeModelCommand }
from "@aws-sdk/client-bedrock-runtime";
const client = new BedrockRuntimeClient({ region: "us-east-1" });
const body = JSON.stringify({
anthropic_version: "bedrock-2023-05-31",
max_tokens: 1024,
messages: [{ role: "user", content: "東京の見どころは?" }],
});
const response = await client.send(new InvokeModelCommand({
// クロスリージョン推論プロファイル ID(地域プレフィックス us. に注意)
// 利用可能な正確な ID は Bedrock のモデル一覧で確認する
modelId: "us.anthropic.claude-sonnet-4-6-v1:0",
body,
}));
const json = JSON.parse(new TextDecoder().decode(response.body));
console.log(json.content[0].text);
モデル ID の文字列は世代やリージョンで変わります。必ず Bedrock のモデル一覧(コンソール/ドキュメント)に表示される正確な ID をコピーして使ってください。古い ID をハードコードすると、提供終了時にまとめて壊れます。
05Google Vertex AI(Gemini Enterprise Agent Platform)で Gemini を呼ぶ
Google のプラットフォームは 2026 年に Gemini Enterprise Agent Platform へ改称・機能拡張されました。ドキュメントやコンソールでこの名前を見かけても、従来の Vertex AI の後継と捉えて問題ありません。基本の使い方は「プロジェクトで API を有効化 → 認証 → モデルを指定して呼ぶ」です。
プロジェクトで有効化
GCP プロジェクトで Vertex AI(Gemini Enterprise Agent Platform)の API を有効にします。
認証
ローカル開発では gcloud auth application-default login でアプリケーションデフォルト認証情報を用意します。本番ではサービスアカウントを使い、鍵の権限は最小限に。
モデルを指定して呼ぶ
Gemini の現行世代(3.x 系)を指定します。同じ Model Garden から Claude も呼べます。
import { VertexAI } from "@google-cloud/vertexai";
const vertex = new VertexAI({
project: "your-project",
location: "us-central1",
});
const model = vertex.getGenerativeModel({
// 現行世代の Gemini を指定(正確なモデル名は Model Garden で確認)
model: "gemini-3-pro",
});
const result = await model.generateContent("東京の見どころは?");
console.log(result.response.text());
Gemini のバージョン番号は更新が速いため、gemini-2.5-pro のような旧世代名を埋め込んだままにせず、その時点で提供されている最新の安定版を Model Garden で確認してから指定するのが安全です。Claude を Vertex 経由で使う場合は、Anthropic 用の SDK/エンドポイント形式に従います(提供モデルやリージョンは公式ドキュメントで確認)。
06Microsoft Foundry(旧 Azure AI Foundry)の位置づけ
Azure 側のプラットフォームは Microsoft Foundry に名称が整理されました。GPT 系(GPT-5.x ファミリー)の中心地である一方、2026 年からは Claude も提供開始しています。つまり「Azure には Claude が無い」という以前の説明はもう正しくありません。GPT を主軸にしつつ Claude も同じ基盤で扱いたい、という構成が取れます。
3社とも、いまや「自社モデル+他社の主要モデル」を同じ基盤に載せる方向へ動いている。
07クラウドを跨ぐなら抽象化レイヤーを挟む
「いまは Bedrock だが、将来 Vertex や直接 API に乗り換えるかもしれない」——そんなときは、アプリのコードを特定プラットフォームに固定しない抽象化レイヤーを挟むと移行が楽になります。代表例が Vercel AI Gateway(AI SDK と組み合わせて使う統一ゲートウェイ)です。
AI Gateway は1つの API で多数のプロバイダ/モデルにアクセスでき、予算上限の設定、使用量モニタリング、負荷分散、フォールバック(あるモデルが落ちたら別モデルへ自動切替)を一括で管理できます。2026 年時点で Anthropic・OpenAI・Google・Amazon Bedrock・Vertex AI・xAI など 40 以上のプロバイダに対応し、自前の API キーを持ち込む BYOK も可能です。
import { generateText } from "ai";
// プロバイダ間の差を意識せず "provider/model" の文字列で指定
// 裏側のルーティング・フォールバックは Gateway が担う
const { text } = await generateText({
model: "anthropic/claude-opus-4-8",
prompt: "東京の見どころを3つ、簡潔に。",
});
console.log(text);
抽象化は便利ですが万能ではありません。各モデル固有の機能(特殊なツール呼び出しやマルチモーダル指定など)は、共通インターフェースからは扱いにくいことがあります。「共通部分はゲートウェイ、モデル固有の作り込みは直接呼ぶ」と割り切ると現実的です。
08結局どれを選ぶか
難しく考える必要はありません。すでに使っているクラウドに寄せるのが基本で、そこに「主に使いたいモデル」を掛け合わせれば答えはほぼ決まります。
AWS を利用中 × Claude 中心
→ Bedrock。Claude のラインナップが厚く、IAM/VPC との統合も素直。
GCP を利用中 × Gemini 中心
→ Vertex AI(Gemini Enterprise Agent Platform)。Gemini が一級市民で、Claude も併用可。
Azure を利用中 × GPT 中心
→ Microsoft Foundry。GPT-5.x が主軸、Claude も同基盤で使える。
一方、スタートアップや個人開発で、まだ大きなクラウド統合の要件が無いなら、Anthropic/OpenAI/Google の直接 API で十分です。最新機能がいち早く来る、設定が軽い、というメリットがあります。複数モデルを跨ぐ予定があるなら、最初から AI Gateway のような抽象化を入れておくと後が楽です。
09事前に知っておきたい注意点
- 最新機能の到達にラグがある場合がある:新モデルや新機能は、まず提供元の直接 API で先行し、クラウド経由は少し遅れて対応——というケースがあります。最新機能を最速で使いたい用途では直接 API も検討します。
- リージョン制約:使いたいモデルが、要件のリージョンで提供されているとは限りません。導入前に「目的のモデル × 必要なリージョン」の組み合わせを必ず確認します。
- 料金は変動する:従量単価やキャパシティ予約の条件は頻繁に更新されます。固定料金プラン(Provisioned Throughput/PTU 等)は規模が読めるときに有効ですが、見積りは必ず最新の公式料金表で。
- モデル ID/名称をハードコードしない:世代交代で ID が変わったり旧版が終了したりします。設定ファイルや環境変数に切り出し、公式の最新 ID を参照する運用にします。
- 権限は最小限・重要操作は承認制:呼び出し権限は対象モデル・リージョンを絞り、ログ(誰が何を呼んだか)を残します。生成結果は一次情報での検証を前提にし、事実誤り(ハルシネーション)をそのまま業務判断に使わないこと。
クラウド経由は「同じモデルを、自社の運用ルールの中で安全に使う」ための選択肢です。機能で選ぶというより、組織として無理なく回せるかで選ぶ——これが判断の軸になります。



